EARLY CROSS
country: Japan
style/genre: Progressive Metal, Progressive Rock, New Tendencies, etc.
website: http://earlycrossband.com/
related bands/artists: Tatsuya Hayashi, Mitsunori Ukaji, Tanamura Mutsumi (Machine Messiah), etc.
similar bands/artists: Porcupine Tree, Rush, Metallica, Mistletoe, Sieges Even, etc.
artist info: ハードな側面と叙情的な要素を上手くブレンドした新感覚のProgressive Metalグループ。



Early Cross - Solstice
IHATOV Productions
(2008/2010)

女性ボーカリストを擁する5人組プログレッシヴ・メタル系グループによる1stミニアルバムです。Early Crossは、東京方面で精力的なライブ活動を展開しております。国内のロック・グループを好む人たちを中心に次第にファン層を拡大しているように思います。スタイル的には確かにProg Metal然としているパートは顔を出しますが、意外なことにというか・・不思議なことにDream Theater等に代表されるタイプとは大分異なります。各プレーヤーが目立ちつつ、凝りまくった楽曲で「押せ押せ」のスタイルではありません。ただしパーツ毎に見ていくとテクニカル系のProg Metal勢との共通項があると感じるリスナーもいるかもしれませんが、それに関しては聞き手の判断に委ねたいと思います。歌詞は全て英語で書かれており、この方面はリードボーカリストのNatashaさんが担当しているそうです。楽曲とアレンジの殆どの部分は、グループのリーダーであるギターリストのHiroaki氏が手がけているそうです。それらを最終的にバンド全体でリハーサルなどを通じてきちんと形にして纏め上げているということなのでしょう。

国内のグループとしては大変珍しく、楽曲で登場する演奏面やセクションを取り出しながら聞いていくとRushSieges EvenPorcupine Treeなどの既にステータスを築いている良質なProg系バンドに通じる空気感を持っています。また女性ボーカルを中心に据えたロマンティックで情感を込めたパートでは、オランダのThe GatheringDelphianに通じるようなところもあるなーと思いました。それと同時にハード&へヴィに音が迫ってくる部分ではMetallicaDevin Townsendに近いところがありますが、耳に負担がかかり過ぎないような作りになっています。何度リピートして聞いても楽しめるような丁寧な音作りがポイントです。バンドはHiroaki氏のようにメンバーによって、英国や北欧のフォーキーでトラッド系なものを始め往年のプログレッシヴ・ロック音楽からの影響を公言しています。柔和で温かみのある要素は、そういった方面からの影響が少なからず歌ものに反映されているように感じられるのではないでしょうか。

サウンドは大変良好で、各楽器陣の音のバランスもよく考えてレコーディングされている様子が伝わってきます。バンドによる演奏も引き締まっており、畳み掛ける部分や勢いのある部分は充分カッコイイと感じました。個人的にはギター・ベース・ドラムなどの音の分離がすこぶる良いことも含めて、充分楽しませていただきました。若さに任せたストレート直球勝負では終わることはありません。楽曲のムードや雰囲気に合わせてリズムパターンやテンポ、そして雰囲気を変えるなど工夫しています。アルバムの後半では、RushSylvanに通じるような緻密なプログレッシヴなパートも登場しております。その辺りはProg Metalファンなら多分ググっと来ることでしょう。演奏だけのパートもカッコイイのですが、ナターシャさんの歌声が入ると全体的にグッと厚みがでてきます。リードボーカルのパフォーマンスも、女性本来の良さを充分にフューチャーした無理の無い声域で歌っています。Natashaのパフォーマンスは、後半になればなるほど魅力が増してきているような感じで聴くことができました。特に5曲目のCairnと6曲目のWind of Autumnは、メロウで哀愁度もたっぷり入ったものになっています。自分の中では、特に気に入っている2曲になりました。

アルバムにおけるバンドの演奏は常にタイトであり、リズムの切れ味は非常に鋭いところがポイントでしょう。本当に新人グループなのだろうか?と思うほど、彼らの音作りや仕上がり像は作品を完成させる前から具体的に準備されていたのかな?と思いました。今回のアルバム「Solstice」では、とにかく叙情的な部分とハードな路線の融合の仕方が大変巧いなーという印象を持ちましたね。Early Crossの場合は、「風景が浮かぶような音楽性」をテーマにもって頑張っていることが伝わってきました。また自分たちの音源も積極的にMySpaceなどでネット上で紹介しています。興味を持った方はぜひ、彼らのマイスペースで新しい音源をチェックしてみては如何でしょう。http://www.myspace.com/earlycross (プロモ盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤


Early Cross - Pathfinder
Lion Music
(2013)

関東を拠点に活動をしている女性ボーカリストを擁する国産Progressive Metalグループ: Early Crossによるフルレングス1stアルバムです。2008年のEP盤「Solstice」で既に素晴らしい音楽性と演奏力を証明しておりましたが、満を持して遂に正式な1stアルバムがLion Musicよりワールドワイドで今年2013年にリリースとなりました。EP盤の「Solstice」で既に自分達が表現したいサウンドスタイルを確立していたので、今回はどのような内容に仕上がっているのか気になっておりました。全体を聴いた感想としては、驚くことに前回のEP盤を上回るスケール感と幅の広さを感じさせる楽曲と演奏、そしてサウンドとなっています。

Early Crossの場合、音楽スタイルを一言でいい表わすことのできない懐の広さがあるように感じます。バンド側は、「風景を想起させる音楽性=Landscape Rock」をテーマにしております。このレヴューページでは、Progressive Metalと表現していますが、それは決して音楽性を限定するものではありません。これは個人的な見解ですが、エモーショナルなProgressive Metal系サウンドとメロディアスなProgressive Rock系のサウンドを土台としながらも、様々な音楽性を吸収した彼等ならではのオリジナリティーの高い部分にリスナーは大きく魅了されているのではないかと思います。僕個人の見解としては、彼等の音楽性や演奏アプローチはEP盤のSolsticeのレヴューで書かせてもらったように、広義の意味でのProgressive Metalだと捉えています。Dream Theater風な目まぐるしく攻勢をかけるテクニカルなタイプとは異なります。我々がよくイメージするProg Metal系バンドとは大分様子が異なります。動と静を兼ね備えた演奏手法と、楽曲の世界観を重視したサウンド形態などを聴く限り、むしろRush, Sieges Even, Fates WarningPorcupine TreeMarillionなどのグループが得意としている音楽サウンドや方向性が好きなリスナー層にアピール度が高いと思います。それらのバンドに加えてMetallicaDevin Townsendのようなメタル・サイドの要素も同時に強く感じさせるのも特徴となっています。

不思議なことにEarly Crossの音楽を聴く人によっては、印象が実に様々なようです。彼等の音楽を特定できないというのも彼等独自なのかもしれません。AnathemaAmorphisに代表されるような、Atmospheric Metalと捉えている人もいらっしゃるようです。その一方で、The Gatheringなどに代表される女性ボーカルを中心としたGothic Metalを中心に聴いている人にも楽しめるように思います。さらに興味深いのは、メタル系サウンドが苦手なリスナーの間でも、評価が高いという声をよく耳にしています。Riversideに近い雰囲気であるとか、「OpethThe Wishing Treeの中間地点にいるかのようなサウンド」と表現する人もいるほどです。聴く人によって印象が様々なのは、彼等の音楽性の広さを表わしていると強く感じさせます。それと同時にリスナーを特定させない魅力を保持しているといっても過言ではないでしょう。

それでは、「Pathfinder」の概要に移りたいと思います。 バンドメンバーは、Natasha Vaichuk (vocals)、Hiroaki Kato (guitars/keyboards)、Yugo Maeda (bass)、そしてYushi Soutome (drums)で構成されています。彼等をサポートするゲストミュージシャンとして、東京を中心に活動しているプログレッシヴ・ロックグループのMachine MessaiahからMutsumi Tanamura氏が参加しています。また北欧のProgressive Rockバンドとして有名なAnekdotenからJan Erik Liljestromがゲスト参加していることも驚きです。ちなみにMachine MessiahのMutsumi Tanamura氏は、この作品の楽曲において英語歌詞のアドバイザー的な役割を持っています。もう一人、英語歌詞のアドバイザーとして、Blindmanのドラマーとしての活動で知られているLouis Sesto氏もクレジットされています。

前回のEP盤は、バンドと日本人のエンジニアを中心に制作されていました。レコーディングとエンジニアリング関係は、前回のスタッフが継続して関わっている一方で、注目すべきなのは新作のPathfinderでは、ミキシングにAnathemaCircus Maximasの作品を手がけたことで著名なChrister-Andre Cederberg (Animal AlphaIn The Woods)が担当しています。そしてマスタリングについては、AnathemaMotorpsychoEnslavedの作品を手がけたことで定評のあるChris Sansomがクレジットされています。ミュージシャンだけでなくレコーディングに携わった面々の名前をジックリ見渡すだけでもProgressive Rock、Progressive Metal、そしてAtmospheric Metalに精通している強力な面子がサポートをしていて驚くことでしょう。また音楽だけでなく、アートワークを含めて全体的な作品を意識しています。ジャケットカバーだけでなく中身のブックレット一枚一枚もアーティスティックな部分を表現しています。今回のアートワークを手がけたTakashi Miyamoto氏は注目すべき才能の持ち主だと感じました。

アルバムで展開されている音楽とサウンドについてですが、新作でもリスナーの期待に沿う深遠な仕上がりになっています。構築された世界観とキャラクター性を活かしているのは、Early Crossの強みとなっています。まず顕著なのは、リードボーカリストNatasha Vaichukの歌唱と表現力がEP盤よりも大きくグレードアップしています。情感豊かで柔和な声質をベースに丁寧に、時にはダイナミックにエモーショナルに歌っているのが大きなポイントだと感じます。バンド側の演奏は、以前にも増して、エレクトリック楽器とアコースティック楽器の特性を活かしています。これまでと同様に、ハードとソフトの両面を上手く使い分けております。バンドの中心人物であるHiroaki Kato氏による印象的なギターソロやフレージングが以前よりもグっと増えていますね。またバンドが生み出す展開部や躍動感に満ちたインスト部分などの聴き所が満載です。Yushi Soutome氏 (drums)とYugo Maeda氏(bass)のリズム隊は、堅牢で安定しているのが流石です。場面によっては、瞬発力の高いパッセージや緻密なプレーを繰り出し、カッコイイ演奏が飛び出してきます。

アルバムの前半で登場する1曲目のAshes & Yarrowと2曲目のCry Havocは、ダークでハードな側面が強調されており、グイグイと引っ張っていく力強さを感じさせて、個人的に唸りました。EP盤の雰囲気に慣れ親しんでいた方や、バンドのProgressive Rock的な要素が好きな人によっては、ちょっと意表を突かれてしまうかもしれません。しかし、これらの曲は彼等が得意としているダークな質感を伴うHard & Heavy寄りなProgressive Metalサウンドが強いです。実際にライブでも演奏されているナンバーですが、一旦嵌ってしまうと、どの音楽が好きなファンにも受け入れられるでしょう。Ashes & Yarrowは、少しThe GatheringDay Sixが持っている重厚なサウンドと雰囲気に通じると思いました。Cry Havocは、MetallicaBlack SabbathLion's ShareKing Diamondなどを想起させるHR/HM系のリリシズムやカタルシスがあるので、体を動かさずにはいられないメタル的な高揚感を存分に味わえます。

3曲目から5曲目までは、EP盤にも収録されていたので、Early Crossを初期から応援しているファンやリスナーにとってはお馴染みのナンバーが登場します。顕著な違いは、それぞれの歌詞の一部に修正が加えられていること。もう一つは、それぞれの楽曲の良い特性がググっと引き出されて、魅力がさらに増していることが如実に分かります。3曲目のHymn to the Fallenは、ライブでもよくプレーされており、彼等の音楽性をよく表わしているナンバーだと思います。この曲を聴くと、自分はRushSieges Evenに通じる要素があるように思います。しかしながら、彼等のスタイルを踏襲している訳ではないので、誤解がありませんように。Early Crossならではの、起伏の作り方と躍動感に魅了されることでしょう。新しい録音とプロダクションにより磨きがかかっています。ハードでメタリックな側面だけでなく、それと同時に優美で柔和なムードも感じさせるところは、間違いなく彼等の真骨頂であります。Early Crossを代表する楽曲ナンバーという位置づけをしています。

4曲目のIn the Half Light of the Canyonはインタールード的な歌無しの楽曲ですが、ギターのフレージングとメロトロンの優しい音色が特徴的です。空間や隙間をいかしたストレートな内容となっています。5曲目のCairnも、バンドを代表する楽曲ですね。静と動を上手く使い分けており、ボーカルもバンドの演奏パフォーマンスもエモーショナルで躍動感があります。次第に次第にエネルギッシュでドラマティックになる魅力溢れる楽曲として、ライブでも人気の楽曲となっています。Cairnに関しては、まるでMarillionMetallicaのスピリットが同居しているかのような・・・と表現したくなるほどです。

6曲目のThe Pilgrimageには驚かされました。14分に渡るロングフォームの楽曲となっており、これまで以上に異国情緒溢れる内容であります。今回のアルバムの中では最もProgressive Rockとして捉えられるものに仕上がっています。楽曲の展開も非常に面白いですが、いろんな要素がテンコ盛りなので、何回聴いても新しい発見があることでしょう。しかしながら、「ロングフォームの楽曲は、どうも苦手」と感じているリスナーもおられることでしょう。ですが内容としては、物語性を意識しており、奇を衒っていないので、すんなり受け入れられると思います。起承転結を上手く考えた構成となっていますし、様々な工夫と仕掛けが施されており見事な内容です。一回聴いただけでも、スっと入ることができますが、何回も聴くと味わいが増してきます。エレクトリック〜アコースティックの楽器の配置が巧みだと思いました。歌だけでなく、語り掛けによる描写も目に浮かんでくるかのようです。凄く極端な表現をすると、Orphaned LandFates Warning、そしてRenaissanceなどの音楽性が好きな人には、とってもユニークな楽曲ではないでしょうか。いやいや、この曲の持っている充実感とメロディーのセンスと楽曲の構築性には圧倒されるほどで、本当に凄いですね。

7曲目のThe Fogも面白いナンバーだと感じました。メロトロンのサウンドが、フレージングとリードを取っているかのような楽曲であると感じました。リズムギターの刻み具合に関しては、不思議なことにEnchantBreak辺りに通じるかのような雰囲気もあるように思いました(ただし、楽曲全体の雰囲気がEnchantのスタイルに似ているという意味では全くないので、誤解のなきようにお願いします)。内省的なムードを含みつつ、コンテンポラリーでモダンな色づけを感じさせる演奏と歌が特徴と言える楽曲ナンバーです。

最後になりますが、Pathfinderは力作に仕上がっております。現時点では、まだ正式な国内盤としてのリリースは未定のようですが、既にBurrn!の輸入盤チャートでは、2ヶ月連続でランクインを果たしているとのことです。国内だけでなく、海外の方でも評価が高まっているように思います。この作品を通して、彼等の活動範囲が今後も広がっていくことになるでしょう。アルバムをリリースしたばかりですが、東京方面を中心に精力的にライブ活動を展開しています。アルバム作品のみならず、ライブ演奏も大変素晴らしいです。Progressive Metalのスピリットを持った良質なグループが国内にも存在していることを実感していただけるのではいでしょうか。興味を持った方は、現在ツアーも行なっているそうなので、ぜひ足を運んでみることをお薦めします。

PILGRIM WORLD推薦盤

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