FRAGILE VASTNESS
country: Greece
style/genre: Prog Metal
website: http://www.fragilevastness.com/
related bands/artists: Retrospect, Airged Lahm, Piranha, Sound of Silence, Tania Nikoloudi, Themis Nikoloudis, Javier Cadillo
similar bands/artists: Horizon's End, Breaking Silence, Wolverine, Pain of Salvation, Elsesphere, etc.
artist info: ギリシャを代表する新進気鋭の実力派Prog Metalバンド
discography: Excerpts (2002)



Fragile Vastness - Excerpts
Sleaszy Rider Records
(2002)

最近はギリシャ方面からも、実力を持ったバンド勢がProg Metalシーンに名乗りをあげてきたことが心強い。ギリシャと言えば、かつてはプログレ・ニューエイジ方面からもAphrodites ChildVangelisという巨人を送り込んだことで知られていると思います。ここ数年は、Nightfallなどに代表されるアトモスフェリリック系メタル〜デスメタル系のバンドが世界的にも注目を集めている国という印象が強かったわけであります。さて、このFragile Vastnessのファーストアルバム「Excerpts」の完成度の高さに、少なからず衝撃を受けました。バンド自体は2000年の2月にPiranhaRetrospectなどで活動をしていたBabis Tsolakis (drums)と、Airged LahmやRetrospectなどで活動をしていたVangelis Yalamas (bass)の2人を中心核として母体を形成します。以前BabisとVagelisは、共にRetropectなるバンドで行動を共にしていたものの、その後バンドを脱退してFragile Vastnessの構想をまとめていくことになっていきます。。後にSound of SilenceなるバンドでプレーをしていたAlex Flouros (guitars)とピアノ教師をしていたEvi Katsamatsa嬢 (keyboards)がFragile Vastnessに参加。バンドを結成して2〜3ヶ月後に、以前Babis Tsolakisと一緒に音楽活動をしていたオペラ歌手としての活動経歴も持つZacharias Tsoumos (vocals)が加入し、現在のバンド・ラインナップが固まっていきます。彼らは、結成から丸々2年ほどスタジオでの音楽制作に心血を注ぎ込み、フルレングス・アルバム完成に向けて意欲を燃やした結晶が、このExcerptsアルバムであります。後に、ギリシャのアンダーグラウンド・シーンを影から支えているSleaszy Rider RecordsはFragile Vastnessの実力を買って、2002年にギリシャ本国を中心にアルバムをリリース。アルバムをリリース後は精力的な活動を展開し、2003年3月のギリシャ本国で行われたPain of Salvation/Rageのギリシャ公演におけるサポーティング・アクトとして大観衆の前で、その実力振りを発揮した経験を持っています。また他にもSentencedDead Soul Tribeと言った実力を持った様々なスタイルのメタルバンド達との共演も果しています。今後の展開に期待したいProg Metalシーンに登場した実力派新人バンドと言えます。

このExcerptsアルバムを通して聴いた感想は、とてもユニークで興味深い内容と言えるでしょう。Prog Metal的な色合いが大変濃いアグレッシブ且つテクニカルな技巧的アンサンブルが前面に押し出された内容として楽しめる一方で、それだけにとどまらないバラエティーに富んだ音楽性も取り込んでいる点が意欲的です。Jazz, Fusion, Latin, Ethnic Music, Trance/Techno, 南欧・南米音楽などといった要素をProg Metalというフィルターを通して、巧みに融合し自分達のサウンドとして仕上げている点が聴き手をおおいに惹きつける魅力となっている。色んな要素を織り込んでProg Metalサウンドに仕上げている点で言えば、確かにPain of Salvation, Wolverine, Dream Theater, Fates Warning, Arkと言った第一線で活躍しているバンド勢にも肉薄するものがあると強く感じさせてくれます。他の良質なProg Metalバンドに共通して言える高度な音楽性と演奏技術を駆使した、パッショネイト且つエモーショナルな奥の深いサウンドが展開されております。また、このアルバムに関してはバンドメンバーだけでなく、Tania Nikoloudi、Themis Nikoloudis、Javier Cadillo、Ionna Mitsoglouといったギリシャ本国で活躍しているプロミュージシャンがゲスト参加しており彼らの存在が、よりこのExcerptsの演奏に深みと情熱をもたらしていると感じさせます。バンドの中でも結成時から中心となって音楽面で貢献をしているVangelis Yalamas (bass)のコンポーザーとして力量には、畏敬の念すら感じさせるほどです。Excerptsは1回通しで吸収できる内容ではなく、回数を重ねて聴くたびに味わいが出てくる、所謂「スルメ・イカ」的なアルバムです。サウンドやプロダクション全体を見ても、非常に音質もしっかりとした内容となっておりまして、ギリシャのProg Metalバンドの弱点と見られていた「プロダクションの弱さ」をあまり感じる事はなかったです。

演奏やボーカルスタイルなどに関しても興味深い点がいくつかございます。前述した通り、Fragile Vastnessのメンバーは全くの新人ではなく、それぞれが実力を持った敏腕ミュージシャンという様子が窺えます。巨漢ギターリストのAlex Flourosは、どちらというとLemur VoiceMarcel CoenenDream TheaterJohn Petrucci的なスタイルを得意としておりテクニック的にも流麗且つアグレッシブな技法を得意としています。ベーシストでありこのバンドの中心人物Vangelis Yalamasの演奏技術も卓越したものを持っており、エレクトリック・ウッドベースやフレットレス的なフレージングも見事に披露。キーボーディストのEvi Katsamatsaは才色兼備の美人鍵盤奏者という印象で、クラシックピアノの教師をしている実力が遺憾なく発揮されており、その指さばきや音色の選択、ソロからコンピングにいたるまで非常に洗練されたものを持っています。ゲストで参加しているミュージシャンの1人、Tania Nikoloudiも、素晴らしいピアノ演奏とラストナンバーでBilly HolidaySarah Vaughan的ジャジーな歌唱を披露していて感銘を受けるに至りました。Babis Tsolakisによるドラムさばきも大変見事なもので、あらゆるリズムに対応し且つ変拍子やテンポチェンジも決めておりますし、Fragile Vastnessの屋台骨として大いに貢献しております。シンガーのZacharias Tsoumosは、Prog Metal系バンドのシンガーとしては珍しくバリトン・シンガーという印象で、中低音から高音域に至るまで幅広い声域をこなす独特の声質がオリジナリティの高さを感じます。先ほども少し触れたゲストミュージシャン達も、現役プロとして活動をしている各クラシック・ジャズ畑を始めとして、南米音楽に精通している助っ人ミュージシャンを含めてがそれぞれ合わせて数名ほど参加しております。Themis Nikoloudisのviolinプレーは随所でエモーショナルなソロ演奏を披露しており、まるでKansasRobby SteinheardtCurved AirDarryl Way的なニュアンスを醸し出していて白眉であります。また南米独特の楽器Quenchoを奏でるJavier Cadilloによる演奏がスペイン的な色合いを引き出すなど不思議なエスニック的サウンドを生み出しております。

どの楽曲も大変洗練された、深みのあるProg Metalが楽しめるとにかくユニークな色彩の作品がExcerptsという印象です。1曲目のやや色彩の明るいハード目なナンバーLittle Red Riding Hood(内容は童話「赤頭巾ちゃん」がモチーフとなっております)を始めとして、メランコリックな翳りのあるプログレメタルナンバーWeep No More(CDにもVideoファイルとして同曲がWINAMPやWindows Media Playerなどで楽しめます)、スピーディー且つハードドライビングなナンバーObliged To Suffer、メリハリの利いたテンションの高い演奏と躍動的なリズムが支配的な楽曲ナンバーParasiteFormulaなどが続きます。そしてエスニック調のFlying Over Nazcaや最後に収められているジャズ色が濃いラウンジ・ナンバーEye To Eyeなど全編に渡って練り上げられたトラックが目白押しです。昨今は、ギリシャからもHorizon's EndBreaking Silenceだけでなく、Firewindといったギリシャ人メンバーを含む実力派バンドなどが世界的にも知られてくるようになりました。特にギリシャのシーンを活性化させるのに貢献しているSleaszy Rider Recordsには、ぜひとも踏ん張ってよいバンドを発掘していただきたい(←Tocky様の情報に感謝でございます)。このFragile Vastnessには、今後も大きく注目したいと思います。(最後に蛇足的な話を一つ。Eviファンの男性諸君には残念なお知らせになるかもしれませんが(?)、Evi Katsamatsa嬢は既にドラマーのBabis Tsolakis氏と結婚しているそうです。(購入盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤


Fragile Vastness - A Tribute To Life
Sleaszy Rider Records
(2005)

前作Excerptsで、幅の広い音楽性と力量の素晴らしさを充分にアピールしたギリシャの強豪Prog Metalグループ。次の新作で果たしてどのようなアプローチをとってくれるか?とProg Metalファンの間で、密かに注目をされていました。大胆にもこの2ndアルバムでは2枚組にしてコンセプトを貫いた作風になっています。前作も非常に魅力あふれる内容になっていましたが、今回のアプローチでも前作で見られたような技巧的なProg Metal奏法や展開が見られる一方で、そういった範疇を軽く越えてしまうかのようなエスニックテイストが濃い変化球も交えた意欲作に仕上がっています。演奏形態は、前作で証明したように非常にしっかりとしたものをもっており、楽曲における起承転結なども細かく計算されております。表面的には前作と同じものを期待していた自分にとっては中盤にさしかかる頃に「あれ?」というような感じで、かなり虚を衝かれるかのような、いつのまにか迷子のように彼らの音楽の中で彷徨うような場面もありました。しかし、全体的な完成度は今回も充実しているように思います。Dream TheaterFates Warningの両方が好きな人に楽しめるばかりではなく、特に今回の作風を見ていくとPain of SalvationWolverineを好むリスナー層をも振りかせる部分は確実にあるのではないかという印象を持ちました。興味深いことにゲストとしてFates WarningのRay AlderやJoey Veraがスポット参加しているものもあって、その辺も楽しむポイントの一つではないかと思います。正直言って、2枚もある作品なので決してとっつきやすいものではないことは想像していただけると思います。長編作品という性質をもっているので、前作以上に気を長くして全体像を少しづつ見極めていくならば、よりいっそう味わい楽しめるのではないかと思います。書いている自分自身も、これからこのアルバムとは長く付き合って味わっていこうと思います。ギリシャ出身のProg Metalグループも様々なものがいますが、個性というか強力なアイデンティティを放出しているという意味では、Sleaszy Rider Recordsに所属するこのFragile Vastnessは、現存しているProg Metal勢の中でも大変面白いなーと自分では感じました。これからも大いに奮闘して、いい作品をリリースしてもらいたいと思う。2枚目のアルバム最後には、ボーナストラックが含まれており、彼らのおちゃらけた部分や音楽をシリアスにとらえすぎない楽しもうという雰囲気も大切にしている様子が伺えます。ラジオ放送のDJぽく、はっちゃけたところを聞く限りでは、やはり地中海に面した人達のフレンドリーな性格も滲み出ていますね。余談になりますが、ギリシャの人達って暖かい人柄の人が多いのかもしれません。(購入盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤

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