LEMUR VOICE
country: Netherland
style/genre: Prog Metal
website: かつては公式サイトが存在していましたが、今は完全にデータは無い様であります。
related bands/artists: Marcel Coenen, Aura, Elysion, Sun Caged, Darshan, Slow Poke Rodrigo, Fifth, Fusily Jerry, Stormrider, etc.
similar bands/artists: Dream Theater, Sun Caged, Arabesque, Fates Warning, etc.
artist info: オランダを代表する技巧派Prog Metalバンド。テクニカルなアンサンブルと、内省的なボーカルメロディーによる深遠な世界が売り。



Lemur Voice - Insights
Magna Carta
(1996)

オランダを拠点として活動をしていた、テクニカルProg Metalバンドの記念すべきファースト・フルレングス。1993年から2000年まで、地元オランダと欧州を舞台に精力的な活動をしていたバンドです。ご存知のように、このバンドのギターリストMarcel Coenenは、現在はSun Cagedでの活動で知られております。このアルバムとは、とても付き合いが長いですねー。Magna Cartaが初期にリリースしたバンドなのでマグナカルタ大好きっ子には、重要な存在だと思います。僕もLemur Voice大好きです。収録されている音世界は、限りなく内省的なサウンドであります。まるで夕暮れ時の切ない、なんとも締め付けられるような悲壮感みたいなものが醸し出されています。一部の楽曲を除けば、非常に沈鬱な色合いの濃いProg Metalサウンドと言っていいでしょう。

個人的には、最初のインパクトは思ったほど強くはなかったのであります。しかし、このアルバムには何か私自身を強力に惹きつける魅力が存在するようで、次第に付き合って行くうちに大好きになっていきました。演奏面は、ほんまに畳み掛ける部分もたくさん登場しておりますし、アップテンポで変拍子びしばしと炸裂して心地よいです。オランダのバンド特有のシンフォニックロックとプログレメタルが溶け込んだ楽曲がちらほらあります。どのメンバーも、本当に巧いし卓越した技術を持っておりますね。特にインストのAkashia Chronicleなどに代表されるように、爆発力のあるアンサンブルと、びしばしとキメるギター・キーボードなどのソロも楽しめます。クレジットではベースとしか、かかれていないのですが明らかによーく聴くと、ベーシストのBarend Trompは、スティックとかも併用していると思うのでありますが・・実際のライブの映像ではチャップマン・スティックも使っておりました。

1stにして既に独特の色合いを醸し出した、割とミステリアスでダークなProg Metal作品を作り上げることに成功しております。アルバムの収録時間や、楽曲の数もちょうど聴くバランスとしても最適であります。いやー本当に全体的に完成度が高いと思うものの、彼ら独特の雰囲気や、夕暮れ時のなんともしれないアトモスフェリックなサウンドが好悪を分けると思います。さらにGregoor van der Looは、こういう、なんていうか・もの悲しい・ボーカルメロディーを歌わせたらピカイチだと思います。切なさに身を浸らせたいProg Metalリスナーには楽しめると思いますし、僕もそのうちの一人です。特にMagna Carta系統が好きな方、あるいは最近のSun Cagedなどに興味を持っているProg Metalファンには、お薦めです。しかし、Fates Warningや少し物悲しいアトモスフェリックタイプのバンドが苦手な人には、ピンと来ないかもしれません。

このアルバムとは、これからも長くじっくり付き合っていきたいと願っております。最後に、Lemur Voiceは2ndアルバムにして傑作のProg Metalアルバム「Divided」をリリース後、解散してしまいました。メタル指向の強かったMarcel Coenenは、上記でも触れたSun Cagedやソロワークやプロジェクトで現在も活躍中です。一方、ボーカリストのGregoorやドラマー・キーボーディスト達は、Drum n' BassユニットのSlow Poke Rodrigoを結成し非常にポップでダンサンブルなことをやっていてビックリです。最後にベース・スティックプレーヤーのBarend Trompの詳細は、はっきり伝わっておりませんがKing CrimsonGordian Knotをスペーシー且つアトモスフェリック風味に仕上げた独特のバンド、Darshanで活動をしているそうです。(購入盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤


Lemur Voice - Divided
Telstar/Sky-label
(1999)

オランダが誇る技巧派Prog Metalバンド、Lemur Voiceによる通産2ndアルバムにして、最後の作品となってしまいました。お気付きのように、彼らは1stアルバムInsightsをMagna Cartaからリリースしておりましたが、その後レーベルを離脱しております。この作品がリリースされるまでに、3年ほどの空白期間がありましたが、地元のレーベルTelstarよりアルバムを発売することにこじつけることができました。2ndアルバムのDividedは、1stアルバムと比べるとかなり大きな飛躍を遂げていると確信させるものがあります。

前回の作品との大きな違いは、以前よりも幅広い音楽性を取り込み、Lemur Voiceのサウンドを確立させたことでしょう。アルバムを聴き始めた瞬間から、強烈なインパクトを持っております。そして、そのまま引き込まれていくパワーと魅力を持っています。1stアルバムで培ったメランコリック且つミスティカルなムードを大事にした、テクニカル〜コンプレックス指向のProg Metalを発展させつつ、スケールの大きい音像を確立することに成功しております。前作同様に、全体的に「夕暮れ時のせつない情景や気持ち」を想起させるものもありますが、今回の作品ではそれを飛び越えて次元を超えたスペーシーな世界観も見事に表現することに成功しております。今回の作品は、音楽面からも歌詞の見地から見ても、格段の進歩を遂げていることを予感させるものがありますね。

演奏面において特にProg Metal的な部分で、貢献しているのが、Marcel Coenenでありましょう。前作でも流麗なギターワークで活躍をしていた現Sun CagedのMarcel Coenenは、このアルバムでも自分のサウンドや奏法スタイルを貫いております。非常にテクニカルでありながらも、前作以上にフレージングやサウンドに気を配った幅の広いギターワークスを披露しています。その他のメンバーそれぞれの頑張りによって、以前よりもグレードがアップしていることも注目しておきたい所であります。ベースやスティックなどのサウンド〜演奏面についても、前作以上に面白い側面が随所で見られます。Barend Trompは、前作同様に底辺を支えつつも、かなり摩訶不思議なフレーズやビートをChampan Stickを使って表現しているところは流石ですし、その後の自身のプロジェクトに繋がっていくものを感じさせます。Barendの場合、面白いスタイルを持っているおりますので、Sean Maloneタイプのミュージシャン辺りが好きなプレーヤー指向のリスナーには注目していただきなーと思ってます(実際にThanks ListにSean Maloneの名前が記載されているので、親交があるのかもしれませんね)。

特にこのアルバムで、サウンドに彩りをつけて活躍しているのが、キーボーディストのFranck Faberその人だと思いますね。アンサンブルにおいては、ギターやスティックのフレージングに絡み合いつつ、よいアクセントを加えております。普段はバッキングや、バンド全体のサウンドに溶け込んでいますが、ここぞというときは派手なシンセ・リードで前面に登場したり、ムーディーな雰囲気を出したりと聴きどころが充分あると思います。前作では使用されなかった機材やサウンドも、いろんな部分で登場しており、ユニークな色合いを押し出しております。彼の場合は、奏法的にもスタイル的にも伝統的なSymphonic Rock〜Progressive Rockの影響を垣間見ることができます。

他のメンバーと同様に、重要な役割を分担しているのは、歌詞も主にてがけるドラマーNathan van de Wouwであります。前作でも素晴らしいリズムワークを繰り広げておりましたが、この作品では他のメンバー同様に技術的な部分だけでなく、楽曲に合わせてダイナミズムにも柔軟に反応していくリズムセクション作りを心がけているように思いました。テクニカルなパートがたくさん登場する部分や、ポリリズム的アプローチ・・・それから、アンサンブル全体における彼のドラムサウンド〜金物系を操る腕前は、非常にスリリングで楽しむポイントとなりました。 自分が思うに、このバンドの楽曲面でイニシアチブを握っているのは、どうもNathan van de Wouwなんではないか?と推測しております。楽曲の方向付けは、Nathanによるものが多いと感じる部分があり、意外なことにギターのMarcel Coenenがグループをリードしている訳でもないような雰囲気です。

リードシンガーのGregoor van der Looについてでありますが、他の楽器陣と比べると基本的な路線は前作と殆ど変わっておりません。しかし、より感情移入を込めた歌い方に幅が広がったことと、歌メロを大事にした表現力に大変気を配っているのではないかという印象が残りました。

さて、それでは本編のDividedの各楽曲に関しての印象に移っていきましょう。序盤の"Solilocide""Universal Roots"に渡って流れが大変秀逸で、新機軸を見せながらもかなりドラマティック且つテンションの高い濃密なProg Metal的展開を押し出しております。特にこの2曲を聴くだけでも、スケールの大きさを測り知ることができるかもしれません。Solilocideは、欧州的なムードと中近東タッチのフレーバーが融合したかのような独特のアトモスフィアーを醸し出しており、次第にテンポアップしていき、Prog Metal的グルーブでノリノリになります(笑)。それから、2曲目のUniversal Rootsは導入部の演出から結構拘りを見せております。宇宙生命の起源と誕生に思いを馳せるかのように、はるか彼方で何かが生まれ、次第にこちらに何かが接近してくるかのような緊迫感が味わえます。僕は、このアルバムの中では、Universal Rootsが特に好きな曲の一つなので、このアルバムをかける度に、ノリまくりになります(笑)。この曲はProg Metalが好きなリスナーにはきっと喜びを満喫してもらえるのではないでしょうか。演奏だけでなく、歌を担当するGregoor van der Looの表現力により、それぞれの楽曲にメランコリックさが増していて、グーでございます。

3曲目の"All for Me"は、それまでのテンションの高いProg Metalパートから一歩身を引いて、少しバラード的内容を含む楽曲に仕上がっております。しかし単なるバラードでなく、なにかディープな意味も込められているようにも思います。この曲もGregoorによって、せつせつと歌われており、Fates WarningRay Alderにも通じる情感の込め方が素晴らしいと思いました。全体的に彼らの中でも、キャッチーな仕上がりの歌メロなのでコーラス部も印象に残りやすくなってます。4曲目のChildhood Facadeは一転して、アルバムの中でもかなり構成が凝っており、ギターのソロやキーボードソロを始め、アンサンブルの絡みあいが大変に絶妙です。正直、最初はなかなか浸透しづらい楽曲でありましょう。頑張って食らいついて、聞き込んでいくと・・・確かに複雑緻密な構成のProg Metal指向の楽曲で、嵌まっていきだすと大変面白い作風であります。歌詞も、非常に複雑な人生を送ってきた人の内面を浮き彫りにした内容となっているので、コンプレックスな楽曲にシンクロナイズしたものになっており、ナルホド納得の曲です。

5曲目のParvedian Trustは、これまた曲のテンポに変化を加えており、序盤は割とミドルテンポで構成をかけつつも、70年代的な切れ味鋭いシンセリードが2度ほど登場しております。段々とヘヴィな音像を増した佳曲と言ってもよいでしょう。6曲目のWhen The Cradle Criesでは、彼らのオリジナリティでもあるアトモスフェリック且つ翳りのあるサウンドで空間を満たしていく曲調で、ある程度Prog Metal的な音像を多少キープしつつ、穏やかに且つ柔和なアプローチを取っています。アルバムの中間地点において、ひとつのクッションとなる効果を作り上げているのではないでしょうか。

7曲目のLethe's Bowlは目まぐるしくもテンションの高いProg Metalサウンドが再び登場し、Dream TheaterFates Warning的なスリリングな演奏展開が楽しめます。最初から最後まで、非常にアップビートでありますね。テンポチェンジも数回繰り返す一方、歌にも緊迫感が漲っています。8曲目のNew Yaniniは、6曲目同様これまたアトモスフェリックな楽曲となっていますが、この曲は次の楽曲Dividedに繋がる役割を担っています。

9曲目のDividedが、このアルバムのクライマックスといってもいいかもしれません。タイプはUniversal rootsやLethe's Bowlとは異なるものの、かなりスピーディーでテンションがどんどんと高まっていく曲調が大変素晴らしい。特に最初の導入部からは、まるでYesを彷彿させるかのようなところもありますが、決してコピーではなく自身のアプローチで臨んだ素晴らしい楽曲になっております。この楽曲は非常に拘りを見せた作りになっております。序盤はハイテンションな演奏、そして緊張感を伝えるGregoorの歌声が支配しておりますが、次第に中間部から変貌を遂げつつあり、ソフトなパートに移行した時点でチェロやサックスのソロが入るなど非常に新鮮なアプローチをとっています。その後、後半部分ではまた緊迫感の溢れるパートに戻り、怒涛のProg Metalサウンドで幕を閉じるという構成になっており、この楽曲も非常に素晴らしくて、聴き応え満点です。

しかし、10曲目に何故この曲が入っているのか謎ですが、あのMichael Jacksonでお馴染みのBeat Itをカバーしております。確かにProg Metalバンドでポップス系の曲をカバーするというパターンとしては、ドイツのAvalonが非常に素晴らしいものも演奏していますが、なぜDividedで盛り上がったところでBeat Itなのか?・・・謎であります(笑)。しかし、単なるカバーに終わらずに、テンポチェンジとして、オリジナルにはないエライJazz路線というかラウンジ風の曲調に変化させて遊び心も出しています。

そしてエンディングはSticks In Spaceという、スティック奏者のBarend Trompが作曲のスペーシーなProg Rockインストで締めくくりになります。この曲は、これまでのLemur Voiceとは全く違う空気を醸し出しており、さしずめKing Crimson + Cloud Nine (Ozone Quartet)という風情で、この曲は思いっきりProg Rock路線と言ってもいいでしょう。

いやーついつい、長くなってしまいました(汗)。かなり色んなスタイルを吸収し、大きな進歩を遂げた作品として海外のProg Metalリスナーの間でも大変評判が高いアルバムということは、充分頷けます。残念ながら、このアルバムを最後にLemur Voiceは解散してしまいます。しかし、このグループのメンバーはそれぞれのバンドやプロジェクトで活動をしております。Marcel CoenenのSun Cagedは、もう説明をする必要がございませんが、他のメンバーの動向について少し触れてこのレヴューを終わりたいと思います。Barend Trompは、その後Darshanに合流しており、アルバムを数枚完成させております。シンガーのGregoor van der Looは、ファンク系ユニットのFusily Jerryに参加後、Marcelの率いるSun Cagedのデモ作品にゲスト参加しております。しかし、彼はなんと他のLemur Voiceのメンバー達数人と合流して、Slow Poke RodrigoというDrum n' Bassのユニットで地元オランダで活動中ということ・・・もちろん、彼らはよほどのことが無い限り、既にProg Metal的な音楽には未練がないのでしょう。Lemur Voiceで、重要な存在であったNathan van der Wouwは、2004年にニューアルバムを出したJoop Woltersのアルバムにゲスト参加しております。それぞれの新天地での活躍に期待をしましょう。断言とまでは、言いませんが、おそらくLemur Voiceの復活は、殆ど実現しないだろう・・・というのは、Marcel Coenen本人のお言葉でありました。このバンドも、この世に既に存在していないのが残念でなりません。(購入盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤

members' related works/projects:

Gregoor van der Loo (vocals) Marcel Coenen (guitars) Barend Tromp (bass/sticks): Nathan van de Wouw (drums) Franck Faber (keyboards)

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