ORPHANED LAND
country: Israel
style/genre: Middle-Eastern Metal, Doom/Death Metal, Arabic/Israeli Metal, Progressive Folk Metal, , etc.
website: http://www.orphaned-land.com/
related bands/artists: Resurrection, Betrayer, Eternal Gray, Enochian Key, etc.
similar bands/artists: Opeth, Dark Tranquility, Katatonia, Wolverine, Evergrey, Paradise Lost, Therion, オルカ団, etc.
artist info: イスラエルを拠点にDoom/Death Metalバンドとして活動をスタート。傑作「Mabool」で世界のファンに認知されています。



Orphaned Land - Mabool (The Story of Three Sons of Seven)
Century Media
(2004)

Orphaned Landは、1991年にイスラエルはGivat Adaで結成されたMetalバンドです。既に90年代の中盤から後半の時期にかけて、暗黒系メタル、アトモスフェリック系メタル、そしてアンダーグラウンドのメタルシーンでは、かなり認知度が高いバンドとして知られておりました。このバンドのことを知ったのは、おそらく約6〜7年ほど前に遡ります。当時読んだ記事では、「イスラエルに珍しいDoom/Death系のMetalバンドが存在しており、アトモス系メタルやダーク系の暗黒メタル層の連中から絶大な支持を得ている・・・」という内容でOrphaned Landのことが書かれてありました。しかしながら、それ以来トンと彼らのことを耳にしておりませんでした。が、紆余曲折を経て、遂にニューアルバムのMaboolをリリース。堂々世界のCentury Mediaからリリースとあいなった訳です。なんと、このMaboolの反響が凄く大きくて、2004年にリリースされた作品の中でも、あらゆるMetalファン層から「画期的、面白い、凄い、素晴らしい・・・」と言った具合に、各メディアでも高い注目を集めることになりました。残念ながら、ネットでの反響などを除けば日本では余り取り上げられていないのが現状であります。しかし、欧米のメタルファンの間では、かなりのインパクトを与えたのは間違いないでしょう。

もしも、普通のDoom/Death系のバンドであれば、よほどのことが無ければ、様々な場所で語られることは無かったはずです。ところが、私のメタル友達が「この作品は、とても面白いから買って聴いた方がいいよ」とかなり騒いでいたので、チェックしてみようと思いました。それでも、「ウーン、Orphaned Landって確かDoom/Death系でしょ?。その手の路線は俺の守備範囲を超えていると思うけど、俺でも楽しめるのかなー?」みたいな会話をしておりました。後日、私が信頼している某Prog MetalファンとOrphaned Landの話になって、「Orphaned LandMabool、凄くイイよ!!。これは、Prog Metalが好きならかなりの高い確率で、絶対イケルよ。騙されたと思って聴いてみなよ。超お薦めだから・・・・」ということが、最大の後押しとなって購入してみました。結果はぶっ飛びました!(笑)。とても素晴らしい出来上がりになっており、これは推薦がなければ購入していなかったと思います。買って良かったなーと、今ではとても満足に至っております。

さて、気になるMaboolの中身なのですが、確かに普通のメタルとはかなり雰囲気が異なります。Orphaned Land側は、自分達のサウンドのことをMiddle Eastern Metalと言っているようですが、本当にその通りだと思います。曲のパーツや、それぞれの要素を抽出して取り上げていくと、DoomやDeath系の出自を強く感じさせるデス声や、ヘヴィな演奏形態などを使って、アグレッシヴでエクストリームな部分を演出しています。また、場面展開によっては、エピックな雰囲気を持っており、シンフォニック・メタルや、それこそエスニックな風味が効いたProgressive Metal的な要素を強く感じさせるところもあります。当初は、メランコリックなDoom Metal、Gothic Metal, Extreme Metal的なスタイルとしてキャリアをスタートさせていたと思うのですが、そういった枠では捉えられない色んな要素を導入し、自分達のオリジナリティを固めていったことが窺えます。前述したように、特にアルバムの中盤や後半部では。確かにProg Metalファンの琴線に触れる演奏形態や、コンプレックスな構成の楽曲も登場しており、その辺りは特に私は大変素晴らしいと感じました。

彼らの魅力として取り上げたいのは、従来のMetalグループが使用する楽器やギア類だけではなく、伝統的なイスラエルやアラブの民族楽器などを使用して、エキゾティックな雰囲気作りが大変上手いということです。Prog Rock系や、Metal系のグループでも、中近東のサウンドを取り入れて楽曲に彩りを加えているものがありますが、一部を除いてどうしても付け焼刃的なもので終わっているものが殆どではないでしょうか?。ところが本場の中近東サウンドや、伝統音楽の中で育ったメタルバンド・Orphaned Landの場合は、全くアプローチが違うようにも感じました。サウンド・エフェクトやインタールード的な使用方法だけでなく、全く違和感なくメタル・サウンドと中近東サウンドを融合させることに成功しております。ヘヴィなサウンドの中に、アラブやイスラエル地域では定番とも言える民族楽器のOud, Saz, Buzukiなどといったアコースティックなサウンドも大変効果的に用いています。楽器の名前などを含めて確認できていないものもありますが、Led ZeppelinPage/Plantが使用していたようなハーディー・ガーディーみたいな音も使っていて、激シブです。

また、現地のイスラエル系の女性コーラスやシンガー〜少年や青年達による合唱コーラス等も参加して、前述したものも含めて、なんとも言えない豪勢な厚みのあるメタルサウンドになっています。基本的には、歌われている言語は英語でありますが、ヘブル語、アラブ語、イエメン地域の言葉、ラテン語、そして彼らが考案したギベリッシュ(Gibberish・・・おや?、Spock's Beardの曲でもこんな題名ありましたね・・・)といったものなども駆使していて圧巻です。音楽スタイルや、サウンドのみならず、言語も含めてメルティング・ポット状態となってますね。僕個人は、あまりメタル・サウンドに民族色を取り入れるのに賛成する人間では無かったのですが、Orphaned Landの音楽に触れてからは、そういう考えをゴミ箱に捨てることにしました(笑)。

リードボーカルのKobi Farhiは、デス・グロール声とクリーンボイスを効果的に使い分けてWolverineOpethMikael Akerfeltに通じるかのようなダイナミックな表現力を持っております。このバンドはツインギターの編成をとっており、従来のMetalグループのようにハーモニーやそれぞれがギターソロを担当しています。中でもYossi Sa'aron (Sassi)は、エレクトリックギターだけでなく伝統的な楽器も演奏しており、特にOudやSazといった辺りを使った演奏や旋律が大変エキゾチックでオリエンタルフレーバーを強烈に出しております。もう一人のギターリストMatti Svatizkyは、どうやらイスラエルの伝統楽器は殆ど担当せずに、Sassiと同様に現代のメタルサウンドに忠実なギタープレーで貢献しています。リズムセクションのUri Zelcha(bass)とAvi Diamond(drums)の2人の貢献度も無視できないでしょう。大きな起伏は、彼ら2人とギターセクションによるものが大きいですが、コンプレックスなパートからミドルテンポのアグレッシヴな部分まで底辺をしっかりと支えています。またゲスト参加になると思いますが、キーボーディストも場面によって結構、活躍しておりますシンフォニックでエピックなサウンド作りや、バッキングで活躍するだけではありません。ここぞというときにはピアノやシンセを使って、時にはProg Metal的な感じのソロも奏でて、素晴らしいプレーヤーです。

作品の世界観や歌詞は、コンセプトが貫かれておりまして、ユダヤ教・イスラム教・キリスト教のバックグラウンドや聖書からインスパイアされた壮大な物語になっています。最初はストーリーを読まずにタイトルや歌詞のタイトルだけで、てっきり旧約聖書で登場する「ノアの箱舟と、大洪水にまつわる」ストーリーのみをコンセプトにしていると思ってました。そうですね、確かに「ノアの箱舟」とノアの子供達として登場する「セム・ハム・ヤペテ」がテーマの大きな土台になっていると思いますが、かなり捻りを加えた物語となっておりまして、大変興味深い内容となっていることが如実に伝わってきます。ちなみにMaboolとは、ノアの箱舟で登場する「大洪水」のことを指します。Orphaned Landの力強い演奏やサウンドに負けない、メッセージや歌詞が含まれております。Three Sons of Seven・・・、Sevenはノアの系統を暗示しているのかもしれませんね。3人の息子達は、それぞれがSnakeEagleLionというキャラクター・英雄ヒーローとして登場してます。

この3人は、Judaism, Islam, Christianityといった世界3大宗教の性質をシンボライズしているそうです。神の怒りに触れた人間達の罪を一掃する決意をした神が、地上の人間を審判する。その時、大洪水によって滅ぼされてしまう同胞達を救うために主人公の3人が、立ち上がり冒険に出ます。「本来は、民族や人々がそれぞれの宗教観・アイディオロジー・歴史観などを超えて共生していかなければならない」、「今までの罪を悔い改めて、お互いに寛容の心で受け容れ合おう」というメッセージを携えて3人の英雄達は飛び出していきます。・・・しかし、皮肉なことに本来、3人の同胞達であり仲間となるべきユダヤ教徒・イスラム教徒・キリスト教徒達は、それぞれが悪魔の思惑にそそのかされて、それぞれが争いにまみれて元に戻れないところまで来てしまう・・・という物語でも現実の世界と同じ泥沼の状態が、Maboolでも結果起こってしまいます。結局、神の審判は下り、Mabool・・大洪水によって罪が一掃され、生き残ったのは3人の英雄達と、その家族達を含むわずかの人間。次に3人の英雄達を待つものは何なのか・・・というのが、おそらく次のE.P.作品「Ararat」に繋がっていくのだろうと思います(蛇足ですが、Ararat・・・大洪水の後でノアの箱舟(The Ark of Noah)が最終的にたどり着いたアララト山のことを指しているのでしょう)。

Maboolの初回プレス盤には、ボーナスでThe Calm Before The FloodのCDがついております。そうなんです、僕が購入したのは、この2枚組の奴なんです。The Calm...の方は、前作のSaharaEl Norra Aliaの中からの楽曲もたくさん含まれて興味深いです。これはライブで演奏されたアコースティック形態を取っておりまして、トラック数は5曲ほどですが、Paradise Lostのカバーを含んでおりまして、5曲目ではメドレー形式で披露されております。従来のメタル系ライブを超越した雰囲気もあります。イスラエル系やアラブ系の会衆賛美を彷彿させるような、そんな気分にもさせられます。歴史的に見ても、またはメディアが伝える情報では、Maboolのストーリーにあるようにアラブ系とイスラエル系の民族がいがみあっております。ですが、驚くことにOrphaned Landのライブでは、民族・人種・諸々の複雑な事情を飛び越え、会場にいるアラブ系とイスラエル系のメタルファンが、同じ空間を共有し、ヘッドバンギングする光景は珍しくないのだとか・・・、なんとも胸が熱くなるではありませんか。

同じメタルグループとしては、ラテンアメリカのサウンドを上手く取り入れたAngraSepultura, スリランカやインド音楽などをメロディアスなProg Metalサウンドに導入したAvalon、形而上学的な思索とエキゾチックな味わいをブレンドしたCynic・・・などといった具合に、異種格闘技的に相反するものを上手く溶け込ませて独自の境地に達したメタルグループの仲間として、Orphaned LandMaboolも確実に入るでしょう。とにかくスケールの大きい作品であるなーという結論に達しました。間違いなくHeavy Metal系のサウンドが好きな人に聴いて、楽しんでもらえればいいなーと思っております。いろんなスタイルのメタルを好むリスナーには、きっと何か新しいものを感じ取っていただけるのではないか・・・と思う次第です。これまでに、活動を継続させていく上で西側諸国のバンドとは異なる、多くの困難や障壁を乗り越えて不屈の魂で音楽活動を展開しているだけでも尊敬に値します。既にこのMaboolで世界中のメタルファンを虜にしたと信じておりますので、今後も素晴らしい作品を作ってメタルファンを驚かせて欲しいと思う。将来、歴史を振り返ってみるときに、Maboolは2004年にリリースされたメタル作品の中でも重要な存在として人々に認知されるのではないでしょうかね。(購入盤Review)

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