SIEGES EVEN
country: Germany
style/genre: Prog Metal, Technical Metal, Art Rock, etc.
website: http://www.siegeseven.com/
related bands/artists: 7for4, Angra, Rhapsody, Looking-Glass-Self, Val'Paraiso, Paradox, Bonebag (Turd), etc.
similar bands/artists: Rush, Annon Vin, Watchtower, Police, Silent Lucidity, Noom, Mind's Eye, etc.
artist info: 深遠な世界を精緻な演奏で紡いでいくのを得意とする、ドイツの皇帝的存在。



Sieges Even - Steps
Steamhammer/SPV
(1990)

テクニカル系Progressive MetalバンドSieges Evenにとって通産2枚目となるアルバム。前作では、Watchtowerに似ていると言われておりましたが、このアルバムは大きく異なっていると思います。ジャケットに見られるような回廊や、迷宮を思わせるような静謐且つ深遠なサウンドが形成されている。パッと聴く限りでは、極力ディストーションやヘヴィネスをある程度制御している様子が伺えます。また、掴み所が無いような、大変地味なアルバムかもしれません。しかしながら、よーく細かく聴いていると、かなり緻密で複雑なアレンジメントが施されている恐るべきProg Metalアルバムです。正直言ってDream Theaterが出現するかなり前から活動をしているグループなので、彼らの場合、かなり個性的なスタイルを有しております。Dream Theater的サウンドをイメージしてこのアルバムに取り掛かったとするならば、「非常にとっつきにくい音楽性だなー」という印象しか残らないかもしれません。ですが、かなり早い段階でProg Metalというものを真剣に見つめ、冒険的なアプローチで欧州の後続グループ勢に大きな影響を与えているバンドの一つだけに、やはり重鎮ならではの味わいが出ております。ギターの音も必要以上に歪ませていないので、場面によってはメタルではないところもあります。ヘヴィーなプログレッシヴ・ロックという風に見てもいいかもしれません。圧巻は、25分にも及ぶ組曲「Tangerine Windows of Solace」でありまして、情緒の変遷を想起させるようなロングフォームの大作となっています・・・しかし、聴く人によっては「なんだこれは?」で終わってしまうかもしれませんが・・・でも、この曲はライブで非常にいい起伏を作り出しておりましたので私は無視できません・・・というか素晴らしいと思います。むしろ、組曲ではない後半のダイナミック且つパワフルな躍動感みなぎる独立した楽曲群の方が、Stepsを初めて聴くリスナーをグイグイと引っ張っていくかもしれません。演奏力や楽曲の構成力は、恐ろしく高いと思います。まるでRushPolice、そして隠し味としてU.K.の要素を融合させたかのようなところも、あるように個人的には思いました(あくまでも、個人的な感想ですけど・・全然そんなの無いやんけ!と突っ込まれそうですけど・・・・汗)。独自の解釈を施し、果敢に挑戦している姿に個人的には心を動かされます。・・・とは言うものの、彼らの場合は入りやすい音楽性では無いので時間をかけて彼らの音楽を楽しんでいただきたいと思います。全体を通して聴く度に、Sieges Evenは、テクニカルメタル〜プログレメタルという世界観を確立した重要なバンドだと僕は思ってます。何かをきっかけに嵌っていくと、大変興味深く、面白いバンドだと思います。当時のジャーマン・メタルシーンの流れの中でも、大変貴重且つ特異な存在の代表格であります。(購入盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤


Sieges Even - A Sense of Change
Steamhammer/SPV
(1991)

プログレッシヴ・メタルバンドのSieges Evenは、プログレメタルやテクニカルメタルの歴史を語る上で、決して避ける事の出来ないドイツが誇る重鎮バンドと言えるでしょう。バンドの母体は、1986年にMunichで結成され、80年代から90年代にかけて活躍をしたバンドです。計5枚のアルバムをリリース後は、Sieges Evenは一度解散をしております。その後Andre Matosを迎えてLooking-Glass-Selfで活動。しかし、その後なんらかの理由でアルバムや音源は、一部のルートを除いて陽の目を見ることはありませんでした。その後、現シンガーのArno Mensesを迎えてVal'Paraisoで活動を継続し、実験的なProg Metalサウンドを標榜しておりました(現在の所、音源入手は殆ど不可能な状態)。しかし、2003年の暮れごろから遂にSieges Even本来の形態として復活を遂げました。2004年4月、オランダのアムステルダムで開催された第2回Headway Festivalで、その健在ぶりをプログレメタルのファンに示す事に成功しました。彼らは、プログレメタルを黎明期から見つめつづけてきたファン層や後発のProg Metalグループから、Fates Warning, Psychotic Waltz, Watchtower等と同様に大きな賞賛を集めている存在だったのです。彼らの場合、よくプログレメタル界隈で、重鎮として語られる事が少なくないのであります。だけどわが国では、思ったよりもイマイチ知名度がそんなに高くないのはどうしたことでありましょうか?。しかしながら、その一方で、日本ではジャーマン・メタル系の音楽を経由して、Sieges Evenの存在に到達した人も結構いるのではないでしょうか。あるいは、「ああーAngraRhapsodyでドラムを叩いていた人が在籍しているバンドですよね?」という形で、かすかにこのバンドの名前だけは聞いた事があるという人もいるかもしれませんね。実は、レヴューを書いている自分自身も恥ずかしながら、Sieges Evenの音に触れるようになったのは、ついここ数年だったりします。そして、遂に2004年の4月に行われたSieges Evenのライブを体験することになった訳ですが、非常に素晴らしい内容に感銘を受けることになり彼らのページを新設する時期が到来した訳であります。もっと早いうちから、このバンドの音に触れておくべきだったという気持ちで一杯です。初期の頃は、Watchtowerに通じる超絶技巧テクニカル路線を繰り広げておりましたが、アルバムの枚数を重ねるごとに自分達独自のスタイルを熟成させていったという印象です。

さて今回レヴューでとりあげるのは、A Sense of Changeです。このアルバムは、彼らにとって通産3枚目にあたります。自分達の世界観を確立させたといっても過言ではない、非常に奥の深い音世界が展開されています。他の追随を許さない完成度の高い崇高なプログレメタルサウンドを楽しむ事ができると思います。彼らがライブで演奏したセットリストの中でも大きなウェイトを占めていたのがA Sense of Changeでありました。彼らの場合King Crimsonのように時期によってスタイルやサウンドを解体させて、新しいサウンドにトランスフォームしているので一概に「彼らの音は、こんな感じ」と言えないかも知れません。このアルバムでは、RushPoliceが提示した音楽をさらにプログレスさせ、ロマンティックに仕上げた印象があります。各プレーヤーの演奏、そしてバンド全体のアンサンブルが非常に高度で知的な色合いが濃くて個人的には唸りまくりです。ただプログレメタルから想起させるヘヴィーで重厚的なところからは、距離をおいております。

Markus Steffanによるギターの音作りは、よりテクスチャーを大事にした内容になっています。できるかぎりディストーションや余計なエフェクトはかけてない感じです。流麗且つ神秘的な雰囲気を醸し出すのを得意としており、たぐい稀なる感性を持った天才肌のプレーヤーという印象です。似ているサウンド・奏法としては、RushのAlex Lifeson、PoliceのAndy Summers, そしてU.K.時代のAllan Holdsworthを想起させるものがあります。そしてMarkusと同じく大変な重要な役割を担っているのが、リズムセクションのHoltzwarth兄弟です。Oliver Holtzwarthによる暖かみのあるベース・トーンと、怒涛のドラミングそしてシンバルワークが秀逸なAlexander Holzwarthなどリズム面をとっても大変斬新であります。この作品では、ニューメンバーとしてボーカリストのJogi Kaiserが参加しておりA Sense of Changeが持っている文芸的な作風に彩りを与える役割を充分に果たしています(余談:Sieges Evenの歴代シンガーとしては、2人目。新作に参加するArno Mensesを含めて、歴代シンガーは計4人)。演奏形態を細かく見ていくと、部分的にHemisphere期のRushを彷彿させる部分が確かに大きいと思います。しかし、全体を見渡していくと彼ら独自の方向性と卓越した描写表現に個人的に圧倒されます。オープニングのイントロダクションなど部分的に、プロデューサーCharlie Bauerfeindによるキーボードを聴くことができます。またタイトル曲のChange of Seasonsでは季節の移ろいを、室内楽器とクラシカルギターが、シンフォロック的に演出する場面もあります。しかし、このバンドはMarkus, Oliver, Alexの3人が一体になったときに繰り出される圧倒的な演奏力とJogiによる歌が被さる事によって魅力が倍増するところに、個人的に感動を覚えました。

本当に聴けば聴くほど新しい何かを発見することができる不思議なアルバムです。A Sense of Changeは、音だけでなくその音から繰り出される世界観と感情の起伏を味わってもらいたい作風になっていると思います。ある意味、高尚な文学作品をプログレメタルのサウンドで表現したかのような内容です。とにかくイントロダクションのPrelude: Ode To Sisyphusから、何が起こるのかとゾクゾクとさせられます。ギリシャ神話に登場する「シシュフォス」を題材にした抒情詩のプレリュードが非常にアンビシャスです。かつてコリントの王であったシシュフォスは、死後は地獄で巨岩を山頂へ押し上げる仕事を命じられたというエピソードがある。心臓の鼓動をキーボードによるビートで刻み、様々な感情が立体的に迫ってくるかのようなMarkusのクリーントーンによるギターのカッティングが極上。躍動感溢れるHolzwarth兄弟のリズムセクション。続いてThe Waking Hour, Behind Closed Doorsとこのあたりは、ライブでも彼らが好んで演奏をしていましたが、どの楽曲も構築された演奏と深遠美が秀逸。続いて上で挙げたシンフォ的な味わいが施された美しいChange of Seasons。チェンバーなサウンドと、クラシカルギターのコラボレーションが素敵で、最初は穏やかに始まるが次第にクライマックスに到達するうちに激しいサウンドに変わっていく。続いてDimension, Prime, 彼らの集大成の一つといってもいいかもしれないイントリケイト且つ繊細な名曲Epigram for The Last Strawが登場。オーラスは、人生の空虚さ・儚さ・無常さが心に迫ってくるThese Empty Placesでトドメをさされます。いやー、全編どれも完成度が高く、このアルバムに関して言えば、私の場合「本当にスゲーよ、やばいよコレー(by 出川哲郎風)」と何回も堪能してしまいます。もしも、この流れに嵌ってしまったリスナーは、Sieges Evenの持つ底なしの魅力のとりことなってしまうのであります。さらにSieges Evenの真髄を求めて彼らの音源を渇望する辛いプログレメタルの旅が始まってしまうことになります(^^;)。

いやーとにかくこのアルバムは、個人的にはとても素晴らしい。はっきり言いましょう、「傑作!!」です。ひょっとしたら、このアルバムが、彼らのキャリアの中でも最高傑作の一つかもしれない。ひつこいですけど、このアルバムから一番ライブで演奏された曲が圧倒的に多かったですから。・・・・しかしながら、ここで冷静に別の側面からの意見や感想にも耳を傾けていかなくてはならないでしょう。ごくたまーにこういう意見も耳にしますよ。例えば「LifecyleとかUnevenとか忙しくてテクニカルで難解なものは、凄く好きだけど・・・このアルバムは、聴いていてどこがいいのか、サッパリ分からないよ。」とか、「うーんサウンド・プロダクションが、もうちょっと良ければねー、あと歌が変だよね・・・っていうかSieges Even自体が、なんか凄く取っ付き難いんだよねー」とかいう意見も聞いた事があるので、大推薦とまではいかないのが本音であります(←ひょっとしたら、それが普通なのかもしれない)。しかしながら、この作品の価値や観賞を楽しむためにあえて弁護させていただくならば、「Sieges Evenの音楽から何を聴き、何を感じるか?」で評価が真っ二つに分かれることでありましょう。正直にいいますと、初めて私がA Sense of Changeに対峙した最初の印象は「エ?」って感じでした。だけど、聴いていくうちに僕は、このアルバムが持っているとてつもない吸引力と、文学的作品にまで高められた世界観に感動と衝撃をおぼえました。現在では、Sieges EvenのA Sense of Changeはプログレメタルの歴史に残る金字塔の一つといってもいい存在となりました。プログレメタルの真髄を知りたいという人は、ぜひ一度はSieges Evenにトライしてみてくださいね。このアルバムは、割と入手しやすい部類です。しかしながら、4枚目と5枚目は廃盤なので入手が極めて困難でありますので、どうしても手に入れたいという気合と根性が入っている皆さんは、オークションサイトなどでしらみつぶしで探してください。さあ、Sieges Evenを求める旅に一緒に参加しましょう(^^)。(購入盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤


Sieges Even - Sophisticated
Semaphone/Quixote Music
(1995/2007)

長らく入手が大変困難だったSieges Evenにとって通産4枚目となる作品「Sophisticated」が、Alias EyePoor Genetic Materialを配給していることで知られるドイツのQuixote Musicより再発売されました。嬉しいことにリマスター盤ということで、ダルメシアンの犬ジャケットでこれまたSieges Evenファンにはなじみ深いUnevenもリマスター盤が同様出ています。いやーもう陽の目を見ることはないのかな?と思っていただけにリマスター盤がゲットできて嬉しいです。さて内容ですが、StepsA Sense of Changeで深遠なProg Metal路線で文芸的指向が強まっていた彼等のサウンドとは異なり、現在の7for4辺りにも通じる爆裂疾走な楽曲のオンパレードです。前作に参加していたMarkus Stefanは脱退しており、後任者として7for4で名を馳せている実力者Wolfgang Zenkが加入したことによりサウンドの変化に貢献しています。シンガーもJogi KaiserからGreg Kellerに交代。リズム隊は、グループの要であるHoltzworth兄弟で不動となっています。当然と言えば当然なのですが、モダンなHard FusionとテクニカルなProg Metal/Rockサウンドの領域に位置するサウンドに変貌しております。彼等のスタイルやアプローチは時期によって解体させ新しい領域への挑戦を試みるのが伝統となりつつありますが、まさにそういった変遷のステップをここでも踏んでおります。ギターリストにはフュージョン系にも強いWolfgang Zenkが参加していることから路線変更しているものの、バンドのメンバー自体どんなスタイルにも対応できる高い能力を持っているだけに新展開でも彼等ならではの強靭な実力を発揮しています。ゲストでしょうかキーボーディストも参加しており、音的にもKeyboardが絡むところはハードフュージョン風味もあって、その辺りが絡んでくれるところもグッドです。演奏力はSieges Evenな訳ですから、当然ハイレベルなミュージシャンシップが全快です。現在の観点からみても、アルバム全体に渡って繰り広げられているこのテンションの高い演奏力は凄い!。フュージョンだけでなく、ところどころでPrimusにも通じるミクスチャー的な要素が顔を出すところもあるのでその部分で好き嫌いは分かれるかもしれません。まあでも充分テクニカル系インストやギター音楽を中心としたジャンルが好きならば、この演奏の面白さと濃密度に嵌っていただけると思います。Prog Metal/Tech MetalシーンにおいてSieges Evenが新しいものを展開してくれたことは注目に値しますね。次の作品Unevenも痛快な爆裂路線の面白い作風となっているので、再発を記念して2枚ともチェックしてみてはいかがでしょうか。(購入盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤


Sieges Even - The Art of Navigating By The Stars
InsideOut
(2005)

ドイツのベテランProg Metalバンドによる復帰第一弾が、なんと!!、あの名門InsideOutからリリースというNewsを聞いたときは衝撃が体を駆け抜けました。以前のレヴューでも書きましたが、Sieges Evenの場合は、各アルバムによって特色がかなり異なっておりまして、Sieges Evenのサウンドを簡単に表現するのは中々に難しいです。ま、私の場合も正直言って、暫く彼らの音楽を把握するのにかなりの時間を要しましたが、それだけの価値はあると断言したいです。特にSieges Evenのオリジナル・ラインナップによって作り上げられたStepsA Sense of Changeに至っては、他の追随を許さない崇高な精神性と文学性が作品から汲み取れるかのようであります。彼らは80年代〜90年代初頭の段階で、既にプログレッシヴな方向性のロックやメタルを指向する作品を完成しており驚嘆であります。私の中ではあの2つの作品や2004年のHeadway Festivalのライブパフォーマンスを通して、Sieges Evenから「Prog Metalの道は決して平坦なものではなく、奥が深いのだ」ということを教えていただいたように思います。(Headway Festivalでのライブレポートはこちらをどうぞ)。実際に彼らのライブで衝撃をくらってしまい、私の人生も変わってしまったんではないかと思うぐらいです(笑)。ま、私の場合かなり熱が入りすぎて、もう既に冷静さを失っているのでありますが、とにかくドイツの皇帝的存在と言いたいぐらい重要なグループの筆頭格の一つになってしまった。

前作Unevenをリリース後は、Wolfgang Zenkは、自身のHard Fusion〜Prog Metal路線を追及することを目的として7for4を結成し、現代に至っております。一方の「本流のSieges Even」はどうなったかというと、完全に解散したというよりも、実験的な試みを図っていたようであります。元AngraAndre Matosや、キーボーディストのJens Johanssonを加えてLooking-Glass-Selfでしばし活動しており、この音楽性がまた興味深い内容でした。しかしながら、このプロジェクトは結局長続きすることはなく、次の重要な段階に進んでいきます。2003年辺りにVal'Paraisoという名義で、実験的な音楽制作や活動を地道に展開していましたが、新しいメンバーとして加入したリードボーカリストArno Mensesの才能を強く買ったメンバー達は、本来のSieges Evenの形態への移行をするのみにとどまらない、新体制を敷いてProg Metalシーンに復帰することになりました。ニューシンガーとして加入したArno Mensesは、実はドイツ人ではなくオランダはロッテルダム近辺で活動をしているバンドTurdのドラマーさんだそうです(驚)。ドラマーとしての素養もあるせいか、難解で一筋縄ではいかない構成で有名なSieges Evenの楽曲を見事にこなしていることは既にライブで証明済みであります。また素晴らしい歌唱力ももっており、おそらくSieges Evenの歴代シンガーの中では、もっとも好まれる可能性を持っていると思います。

さてさて、ようやく本題の新譜The Art of Navigating By The Starsのレヴューに入れそうです(笑)。残念ながら、本来出る予定だったLive Albumのリリースは、現在頓挫したみたいですが、まさか再びSieges Evenの新しいアルバムも聴けるなんて嬉しい限りであります。待ちに待ったアルバム登場という心境で、ほんまに嬉しさで一杯になりました。 1回目は興奮状態で、ワクワクドキドキしながら全編を堪能。それから2回、3回と繰り返して聴いていくうちに、さらに楽曲や演奏を通してSieges Evenの素晴らしさをまた如実に感じることができました。初めてSieges Evenに挑戦されるリスナーは、「あれ?なんだか地味じゃない?」と思われることでしょう。しかし、このアルバムは1回だけで結論を出すのは勿体ないと思います。色んなことが、それぞれの楽曲の中で展開されておりますね。瞬間的に繰り出される強力なパッセージと、プログレッシヴなフレーバーが施されたインストなど、ベテランならではの熟練した技が披露されています。

しかし、テクニカルにバシバシと行き過ぎるのではなくて、楽曲を盛り上がる機能に終始している。それでいながらも、あくまでも主役は歌と貫かれたテーマ。新メンバーArno Mensesの歌も素晴らしくアルバムでは全編で活躍。また、このアルバムはアルバム全体で一つの曲ということでありますが、イントロを含めて8つのパート〜Sequenceという形で分けられております。楽曲の中に「惑星観測」や「航海」などを連想させるロマン志向の言葉が登場しておりますが、どちらかというとメインの主題は各シークエンスで登場する様々な「人間模様」、登場人物を取り巻く様々な「心理描写」、そして場面によっては「自然や宇宙讃歌」などに焦点を合わせているようです。どちらかというと大まかなテーマがあって、音楽を聴きながら細かい描写や感想は聴き手に大いにゆだねられているという印象です。歌詞の世界観は、全てオリジナルメンバーの一人Markus Stefanが取り仕切っているせいか、文学的色合いが濃いのは流石であります。序盤のSequence 1: The Weightのような強烈なヘヴィパーツを含むProg Metal楽曲から、ラストの様々な心理的動きが加速し急展開していくようなSequence 8: Styxに至るまでグイグイと引き込まれて行きました。

個人的には、どの楽曲もかなり洗練された作りになっているので本当に甲乙つけ難いです。音楽面と歌詞の面を両方合わせて、どの楽曲がお気に入りかというとProg Metalのダイナミズムを放つIntro〜Sequence 1: The Weight、Headway Festivalでも威風堂々とワールドプリメアで観衆の前で演奏された、The Policeをプログレスさせたかのような印象を持つ切なさと哀愁が漂うSequence 2: The Lonely Views of Condors。喜びと厳しい現実が交わったかのようなSequence 4: Stigmata、アコースティックで柔らかいギターサウンドが主体の、どこまでも広がる大海原に思いを馳せたくなるSequence 5: Blue Wide Open。人生の中で挫折と失望〜辛酸を味わった全ての人々に捧げるかのようなSequence 6: To The One Who Have Failed、そしてアルバムの冒頭に戻ってループするかのような側面を持ち、作品の集大成的な締めくくりのアプローチを持つラストのSequence 8: Styx・・・といった辺りを中心に味わい楽しんでおります。その他、Sequence 3: Unbreakableでは、曲の中盤で展開されるテクニカル指向の演奏面ではまるでEnchantLeger De Mainがドッキングしたかのようなエキサイティングな部分が魅力的でありましたし、Sequence 7: Lighthouseは、ゲスト奏者としてフルートプレーヤーがいるせいかJethro TullDead Soul Tribeに通じるようなところもありつつ希望の光を見出すような高揚感は、Kansas的なところから影響を受けているのだろうと思います。うわー本当に取り上げたいものが一杯あってキリがないや(笑)。ほんとに、このアルバムに封じ込められたドラマ性と背後に秘められた情感・・・。うーん、まだまだ聞き込めていないかも。もっと味わってみようと思います。

強いてとっつきにくかった楽曲としてあげたいのが、Sequence 3: Unbreakableでした。 曲によっては、なかなかピンと来なかったのですが、ツボに嵌るとこれが気持ちいいです。Unbreakableの序盤が、とっつきにくかったのですが、歌詞と睨めっこしながら数回繰り返し聴くうちになんとか理解できるようになり、それ以降は上でも紹介したように、中盤で出てくるRush〜Enchant的な変拍子やコンプレックスなパーツが登場し、演奏陣のインタープレーが前面に出てくるところが気持ちいいです。

とにかく歌メロが非常に充実しており、Sieges Even史上で最も分かりやすく親しみやすい楽曲構成を心がけているようです。最近読んだMarkus Stefan等のインタヴューによると、驚くことに元々Kansasの音楽から影響を受けたと語っていたことが意外でした。Vanden PlasのメンバーもKansasをフェイバリットに挙げていたように、ドイツではおそらくKansasは絶大な支持を得ているのかと推察いたします。・・・話が逸れてしまいましたが、とにかくメロディーの質が高いと思いました。Markus Stefanによる縦横無尽なギターサウンドが心地よいです。ソフトなセクションからハードなパートまでRushAlex LifesonU.K.時代のAllan Holdsworthの全盛期にも通じる七変化の様相を帯びております。

The Art of Navigating By The Starsは、とにかく面白いアルバムです。最初は、確かにのめりこみにくいアルバムですが、スルメイカ現象のごとく、嵌まると発見がいろいろあるかと思います。演奏だけでなく楽曲の細部に渡ってこだわりがありますよ。どちらかというとメタリックに押し出す部分はかなり減退しておりますが、全然無くなった訳ではないです。何回も回数を重ねて聴いてきたので、ようやくおぼろげながら全貌が把握しやすくなってきたかなーと思います。キーボードは皆無状態にも関わらず、この心地よいテクスチャーや空間美を4人だけで表現しているのが凄い。素敵な作品をありがとう、Sieges Even。(購入盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤


Sieges Even - Paramount
Inside Out
(2007)

ドイツが誇る重鎮Prog Metalグループ通産7枚目となる最新作です。予定では2008年頃にリリースされるのかなーと思っておりましたが、2年ぶりの発売ということでグループ活動も波に乗って好調なことが伺えます。現在Bonebag (Turd)と並行して活動しているリードボーカリストのArno Mensesは、バンドに完全にフィットしておりますね。歌メロの説得度は、前作と同等かそれ以上をキープしていると思います。今回のアルバムは、前作の作風を受け継ぎながらもSieges Evenがアルバム「A Sense of Change」で確立したオリジナリティ豊かな欧州産Prog Metalサウンドと、Sieges Evenとして復活する前のVal'Paraiso時代に構築したコンテンポラリーなアプローチを融合させた感がさらに強まったという印象があります。当然メンバー間の結束はより強固となりつつも、お互いを充分理解したもの同士のベテランの味わいが強まっています。

前作のThe Art of Navigating By The Starsも秀逸な出来栄えでしたが、今回の作品も大変充実した仕上がりになっており、新規のファンだけでなく昔からSieges Evenを応援していた筋金入りのファンの全てをねじ伏せるかのようなコクのあるサウンドと演奏、そして楽曲世界が堪能できると思います。彼等のようにキャリアの長いProg Metalグループの場合は、技巧的なもので何か飛びぬけたことをして証明する必要はなく、派手なテクニカル指向とは距離を置いたものとなっています。むしろ楽曲一つ一つの空気感や流れ、そして詳細部分というかキャラクターに気を遣った内容の仕上がりが非常に優れているという印象です。演奏面だけをとってみると、初期から中期にかけての派手な目まぐるしさやテクニカル度は一見影を潜めた感じかもしれませんが、やはり要所要所で見られる瞬発力と表現力は流石Sieges Evenと驚嘆せざるを得ないスリリング度は確実にあります。

Holtzworth兄弟とMarkus Stefanを中心に展開される、リズムパートやグルーヴ感などビシバシと決めるパートは、まさにSieges Evenと言ってよい痛快さであります。歌詞に関しては、Markus Stefanを中心にしたSieges Even直系のシリアスな内面を吐露したものは健在ですが、特に一つのコンセプトや流れに縛られたものにはなっていないようです。ギター奏法に関しては、ソフトからヘヴィな部分に至るまで非常に幅広く、メランコリックぎみな叙情味と深みが素晴らしいと思いました。この作品では5人目のメンバーといってしまいたくなるほどの働きを見せているプロデューサーのKristian Kohlmannslehnerの貢献度が素晴らしいです。サウンドプロダクションを中心にキーボードやシンセプログラミングなどでサポートをしております。前作以上にキーボードサウンドが上手くちりばめられているだけでなく、楽曲のテーマによっては、Sound Effectやケネディ大統領やマーチン・ルーサー・キング牧師のスピーチ、そして日本が第2次世界大戦において降伏したラジオか何かのレポートなども挿入されてドラマティックな効果を上手く引き出しています。

アルバム全体の流れをおおまかに見て行くと、1曲目の"When Alpha And Omega Collide"はタイトルや歌詞から想起されるように場面展開や表情が豊かなSieges Even独自の展開とハードさを兼ねたオープニングナンバーで掴みはバッチリです。インターバルをあけずに強力なサウンドと儚さや哀愁を強く感じさせサビの部分でグっと来る"Tidal"もハイライトの一つでしょう。3曲目の"Eyes Wide Open"は、Sieges Evenのキャリアの中では一番シンプルで分かり易い歌もの的なもので、意外です。これはSieges Even活動休止の頃のVal'Paraiso時代に近いものがあります。4曲目のIconicは、クリーンで明瞭且つアップテンポなナンバーでポジティブなフィーリングも同時に感じられる新感覚なナンバー。ある意味、前作で培ったほんのりとやや初期のEnchantや90年代中期のMarillionにも近いアプローチといえるでしょう。5曲目のWhere Our Shadows Sleepは、ややテンポを落としダークなムードを保ちつつ、6曲目のDuende、7曲目のBridge To The Divine、8曲目のLeftoversといった具合にProg Metal然としたサウンドで最近のSieges Evenらしさをキープしています。9曲目のMounting Castles In The Blood Red Skyは変わったアプローチとなっており、Markus Stefanの幻想的なギターサウンドを中心のインスト指向となっています。あの有名なMartin Luther King Jr.牧師の有名な1960年代の公民運動のスピーチと溶け込ませているところが、メランコリックな音像でありながらもユニークです。残念ながらキング牧師が高らかに掲げた理想にアメリカだけでなく、世界が追いついていない現状をヘヴィー&ダークなサウンドで悲しく表現しているようにも受け取れます。10曲目のParamountはアルバムを締めくくるロングフォームでディープなものとなっていて、これは重厚な作りとなってます。

最初聴いた印象は、アルバム全体へヴィーでダークな趣きがあるように思いました。確かにギターのディストーションのかけ方は、段々ヘヴィー&ハードな度合いが復活してきているかのようです。しかし、クラシックギターや現代音楽辺りにも造詣が深いMarkus Stefanの場合は、ギターのトーンにかなりこだわりが見られエレクトリックだけでなくアコースティックな色彩やエフェクターも巧みに使うなどあの幻想的サウンドの使い方は健在であります。これみよがしな技巧で攻めまくるのを初期から中期のSieges Evenファンは期待したくなると思いますが、その辺りは控えめになっているということは認識してください。とは言いながらも、テンションの高い重厚なサウンドも登場する一方、リズムパートではOliverAlex Holtzworth兄弟の渋い職人芸が堪能できました。音の分離が非常にいいので、その辺りを中心に楽しむポイントは充分あります。個人的には、まるで嵐の中でじっと耐える辛抱強さと逞しさみたいなものをアルバムから感じ取ることができました。結論としては、また流石の一枚を作ってくれたなーと思います。欧州ツアーも好調なようで、前作に引き続き最新作でも新しいファン層を取り込んでいくパワーとエネルギーを感じます。(購入盤Review)

PILGRIM WORLD推薦盤

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